著者:魚豊
出版:小学館(ビッグコミックス)
既刊最新刊:8巻(完結)
目次(ページ内リンク)
1章:最高のスタートとしての1巻
・地動説と異端とC教
2章:様々な人物が交錯する群像劇的展開
・オクジー
・バデーニ
・ヨレンタ
・オクジー、バデーニ、ヨレンタが出会って新たに脈動する地動説
3章:進む近代化、地動説を後押しするうねり
・異端解放戦線
・ドゥラカ
・廃村での邂逅、異端解放戦線、地動説、ドゥラカの出会い
・異端解放戦線の組織長(ボス)
・感動と意地を地動説に賭けた戦い
物語のまとめ
刊行情報
地動説に至るまでの好奇心と誇りのリレー
ガリレオ・ガリレイの「それでも地球は動く」は多くの人が知っている、地動説というものがどういう風に扱われてきたか端的に表している言葉でもあるでしょう
このマンガは、ガリレオに至る前、もう少し前の地動説の運命……のようなものを描いたものです
こうした実在の人物を出すと史実を描いたもののようにも感じられるでしょうが、あくまでフィクションには違いありません(C教という言い方をしている概ねキリスト教であろう宗教があるなど、限りなく現実に近いフィクションという感じでしょうか)
ですが、きっとこんなようなことがあったんだろうと思えるリアリティがあります
半分ネタバレにもなりますが、このマンガでは地動説に関与し、礎となった一人一人が主人公的なポジションを交代していく、群像劇的な体裁が取られています
その一人一人の姿勢が力強く、魅力的なドラマを形作っていて、人は何のために生きているのかみたいなことも考えさせられます
2024秋クールからアニメ化!
アニメ化の影響で注目度が増しているのを感じます
ので、ちょっと先の展開までしっかりめに更新しました
このページを全部読むとネタバレにもなるので、その辺はご承知いただければと思います
アニメは2クールということで、8巻分しっかり最後まで描かれることでしょう
1章:最高のスタートとしての1巻
感想は人それぞれあるでしょうが、個人的な感想としては1巻が一番面白く、そしてピークです
だからとりあえず1巻を読んでみて!と勧めやすいし、ただその代わりに一番美味しいところは食べ終わった後になってしまうところでもあるのですが……
と言っても、ガクッと落ちたりはしません
全体通して、その8割、9割の面白さは維持しています
地動説と異端とC教
さて、物語は世界チョレーと豪語する、優秀さ折り紙付きなラファウを主人公としてスタートします
大学に行けるだけでもほんの一握りの時代、ラファウはしかも12歳という若さで進学を決めてしまいます
世界チョレーと思ってしまうのも無理もないというものです
そんなラファウは、観測(現在の天体観測よりは、天体の動きを学術的に記録する意味合いが強いでしょうか)を趣味として嗜みます
が、社会的には神学などの学問が優先されるため、観測はやめろと言われてしまいます
合理性を優先するラファウは素直にやめようかと一度は考えましたが……そこで出会うのが「異端者」のフベルトです
フベルトもまた、研究のために観測を必要としていましたが拷問の末に視力がだいぶ低下してしまったようで、ラファウの力を必要とします
何の得にもならない話ですが……もっといい観測地があるという言葉に即落ちするラファウ
なんならフリオチのようで表現はコメディチックでもありますが、ここのラファウに共感できるかどうかがこのマンガを面白く読めるかどうかとイコールかもしれません
合理よりも、興味が勝ってしまうのですね
さて、このフベルトの観測と研究が何のために行われているか……まあ言うまでもありませんね
地動説の登場です
この後の展開はこれ以上は語らないでおきましょう
ここまでも十分良い導入ですが、この後の展開も素晴らしく読みやすくそれでいて驚きと納得感のある構成です
アニメからの人はこの先どうなるのかもわかっていると思いますし、読んでない人も知らないで体感してもらいたいので1章部分はここまでにしておきましょう
是非全巻読んで欲しくもありますが、1巻完結の短編として読んでも満足感もあるし面白いと思います
なお、これから読者的にもながーく付き合うことになる異端審問官ノヴァク
このキャラが好きとはなかなかならないでしょうが、地動説を描く物語の主人公にはなり得ないものの、本作のもう一人の主人公とも言えるんじゃないでしょうか
彼もまた、時代に運命を翻弄された一人なのでしょう
2章:様々な人物が交錯する群像劇的展開
時代は少し進んで十年後
相変わらず、地球は動かないまま……
それでも知らない間に動き続けています
1巻1章は、ラファウを中心に上手くコンパクトにまとまっていましたが、ここからは複数の人物が交錯しながら物語が進んでいきます
オクジー
まず物語を先導するのは、青年のオクジー
空の見るのが苦手という、天文の反対側にいるような設定です
代理で決闘したり、護衛をしたり、強さを売りにして生計を立てている様子が伺えます
仕事仲間のグラスと共に異端者の輸送を護衛する際に、転機が訪れます
ほぼほぼ巻き込まれる形で、地動説に関わる書物のありかの情報を預かり、惑星について詳しいと言うバデーニという修道士を尋ねることになります
この時点ではすごい見せ場があるわけではありませんが、天国に行くため以外の生き方に何かを感じ、意思を持ってバデーニを目指します
このオクジー……に限らず、人が変化していく過程の演出がよくできてますね
バデーニ
バデーニはかっこいいですね
トンスラという、頭頂部をカットするスタイルはザビエルなどでお馴染みとはいえ日本人的にめっちゃダサいですが、それでもバデーニならかっこいいと言えます
とある事情で独眼竜スタイルになっているバデーニは、聖職者でありながら、その言動は高慢な天才学者という感じです
オクジーが訪ねてくることで、彼もまた大きく運命を動かします
ここのいいコンビっぷりも結構好きです
地動説を完成させるためにはデータが少ないため、記録と知性を求め協力者を探します
そうして出会うのがヨレンタです
ヨレンタ
本作のメインヒロインと言ってもいい(異論は認める)のがヨレンタです
2章の中心人物の一人であり……まあ詳細はあまりここでは語らないでおきましょう
ひとまず登場時点では、ヨレンタは天文が好きな女の子という感じで登場します
知性と自由、大人と子供が共存するような魅力が描かれます
ヨレンタには学問の世界で十分に活躍できる才能を持っていましたが、学問において女性が差別される世界観の中で思うように生きることはできません
ヨレンタの住む街には、上流階級の人の知的遊戯として掲示板で問題を出し合う文化があります
そこにあった天文の問題……難問であるのにすぐに解くことのできるヨレンタはやはり優秀なのでしょう
ここでの出会いにより、彼女の運命が動き始めます
オクジー、バデーニ、ヨレンタが出会って新たに脈動する地動説
バデーニが高い知性と地動説の完成者となる欲を、ヨレンタが多量の記録との繋がりを、オクジーは観察のための目を……それぞれが組み合わさることで、地動説の完成に向けて動きが加速します
まあそれももちろん一筋縄でいかず、物語としてはこれから色々あるわけですが
単に地動説の研究というだけなら、バデーニだけで何か上手く行っちゃいそうですが、もちろん他の二人もしっかり活躍の場があります
好きなシーンです
バデーニがヨレンタに向けて言い放つのが(直接ではないですが)「研究者だからだ」という言葉
バデーニは高慢で、合理的にリスクを排除し一人で研究を完成させたいがため、研究自体はヨレンタに協力させません
が……
結局唯一、ヨレンタを女性だとかそういう先入観を抜きに研究者だと認めたのは、バデーニだけでしたねぇ
そして進んでいく地動説の研究
楕円、でなんか感動しちゃいました
今では各惑星の軌道が真円ではなく楕円なのはわかりきっていることですが、何かが円運動していると考えたら普通は真円で考えてしまいますよね
ここから先も、マンガ原作あるいはアニメをお楽しみにしていただければ
3章:進む近代化、地動説を後押しするうねり
異端解放戦線
妙にかっこいいシュミットなどなど異端解放戦線のメンバー達
異端解放……というフレーズ、そして地球を動かすという言葉から、地動説との関与が伺えます
リーダーっぽいシュミットですが、組織のトップではありません
どうやら地動説のことが書かれた本を、組織長(ボス)のところに持っていくようです
ドゥラカ
ドゥラカは小さな村にありながら、金稼ぎなどの考え方に敏感で頭の良い少女です
朝の光が苦手という、オクジーに似た弱点?があります
この賢さは自然に生まれたものではなく、もちろん生来の素養もあるのでしょうが、おじさんの教えが大きいようです
まあこのおじさんのある意味極端な合理主義は、別の形で跳ね返ってもくるのですが……
廃村での邂逅、異端解放戦線、地動説、ドゥラカの出会い
おじさんに連れられて廃墟にやってきたドゥラカは偶然、隠されていた本を見つけます
これは異端解放戦線が持っていたもので……なんでここにあるのかは(面倒なので)書きませんが
とにかくこうしてドゥラカは地動説、というより彼女にとって重要なのはそれが「興味深い本であること」なわけですが、その出会いを果たします
ここで第三章のカットが入ります
しかしおじさんがここに連れて来たのはこの本があるからではなく、自分が助かるためにドゥラカを売るためでした
そのピンチを救うのもまた、ドゥラカの知性です
話がまとまったようにも見えますが、そう簡単には終わらせてくれません
本の本来の持ち主、異端解放戦線も登場します
ここでも光るドゥラカの機転、そして大胆さ、ですね
こうしてドゥラカは異端解放戦線と合流します
異端解放戦線の組織長(ボス)
3章を象徴する言葉の一つが、科学なのではないかと思います
結局のところ、人のうねりが地動説を封じようとも、科学が発展していけばいつかは地球が動いていることは明らかになっていくのでしょう
そんな予感も感じさせます
さて、地動説の本の出版のため、メンバーは組織長のところへ向かいます
そうして現れた組織長は……
感動と意地を地動説に賭けた戦い
すっかり老け込んだノヴァク
色々ありましたからねぇ……
そして地動説も徐々に日の目を浴びる匂いが感じられ始めます
物語も終盤という感じです
蛇足ですが、それは提案ですか、に対して命令と返ってきたら即了解とする流れ
かっこよくて好きです
物語のまとめ
なんというか本作のまとめは、投げかけみたいな要素が多分にあって、こうなりました!とは色々な意味で書きにくいんです
元々、実在の人物はなく、仮定の話が多い
特に最後の方はその「仮定」であること「if」であることが存分に表現されていたようにも思います
ただ、歴史には残らない人々の色々な思いが繋がって……
やたらと考察するのも野暮な感じなので程々に
いずれにせよ人々は、いつか地球が動いている事実にたどり着くということですね
刊行情報
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